プロフィール（丸山明日果より）

■娘：明日果より

画：丸山里矢

丸山明日果 (作家・女優)
一九七四年、東京都生まれ。父は詩人の故丸山辰美、母・里矢は歌声喫茶「灯」の創立メンバーで歌唱指導者第一号。都立杉並高校卒業後、劇団文学座附属演劇研究所、劇団俳優座演技部研究生として学ぶ。その後、映画『尾崎翠を探して～第七官界彷徨』に出演、他に舞台、TVCMなどに出演。
作家としても活動をしており、著書に母の青春を追いかけたドキュメンタリー『歌声喫茶「灯」の青春』がある。

丸山明日果著
『歌声喫茶「灯」の青春』

オレンジ色の頭髪、それも目が醒めるような真オレンジ。新宿PePe前の待ち合わせ場所に現れた母、里矢。
「柿！？にんじん！？」
目をみはった。
「似合うでしょう」
「…似合う」似合ってしまっている。
あたりまえよと歩きだす。あとを追い追い話しかける「お母さんは人間というより妖怪ですねぇ」
聞いていない。だからもう一度言う。
「ますます妖怪らしくなってきましたね」
「え、なに！？」
耳に手のひらを添え、聞こえやすいように私の口元に寄ってくる。大げさ。耳が遠いのだが。眠りをさまたげる聞きざわりの悪いことを、本当に聞こえなくした。
「なに、なに何？」
素敵な言葉は聞き逃したくないとばかりに嬉々とした顔で。
母はホントにいつも私を驚かす。私を産む以前の、ひとりの女だった母は何をし、どう生きていたのかと思う。
『灯』を作ったのだと面倒くさそうに答える。
もう和紙をちぎりはじめている。